IT人材育成コラム

エンジニアの新人研修は3年後の成長を視野に入れた基礎教育から

新人研修を社会人の通過儀礼で終わらせず、早期の戦力化と長期的な成長を両立させるポイントになるのが基礎教育です。エンジニアが新人研修で身につけるべきこと、効果的なカリキュラムと資料作成のポイント、新人研修あるあるの失敗例と対策などを解説します。3年後の成長につながる新人研修のヒントとしてご覧ください。

エンジニアの新人研修の目的と効果的な研修期間

新人研修の目的は、新人エンジニアの早期戦力化と成長の基盤づくりです。配属後すぐに必要となるスキルと、エンジニアの地力となる理論をバランスよく学ぶことが理想といえるでしょう。限られた時間の中で必要な知識とスキルを身につけるためには、適切な内容を効果的な手法で実施する必要があります。

エンジニアの新人研修は、企業や新入社員のバックグラウンドによって異なりますが、平均的には3カ月から6カ月とされています。未経験から育成する場合は、少なくとも2カ月以上の研修期間は必要でしょう。

効率よく行うためには研修の目的を定義し、ゴールを明確にしておくことが重要になります。しかし、配属先によって求めるスキルが異なるなど、頭を悩ませる研修企画の担当者も多いようです。

配属先のニーズに最適化するのではなく、長期的な強みとなる成長速度を高める基礎教育で、組織の基礎力の底上げを重視する方針も考えられます。組織全体の強みの向上を目的とした研修メニューには説得力があり、自信を持って企画できるようになるでしょう。

エンジニアが新人研修で身につけておくべきこと

新人研修でエンジニアが身につけるべきことはなんでしょうか。
新人研修の目的のひとつに配属後の早期戦力化があります。早期戦力化には、配属先で使用するテクニカルスキルに加えて、業務で使用するツールの使い方やITリテラシーなどが身についていると役立つでしょう。

テクニカルスキル以外には、問題解決力やコミュニケーション力などが求められます。
問題解決力はテクニカルスキルを業務で活かすために必要なスキルであり、これが身についている人は自ら課題を見つけられるため、指示待ちにならず、OJTの指導がしやすくなります。
さらにプロジェクトやチームにとけこんで仕事をするためには、認識のすり合わせや情報共有をスムーズに行うコミュニケーション力は必須スキルです。

長期的な視点でエンジニアとして高度な専門知識を積み重ねていくためには、技術の基盤となる基礎教育が重要です。新人研修で基本的な技術知識に加えて、学習を続ける姿勢や方法を学ぶことも長期的なキャリア形成につながるでしょう。

また、研修に認定資格を取り入れることで、勉強の進め方や習熟度の明確な指標ができます。資格試験対策を通して網羅的に基礎知識や技術構造を勉強する機会となり、将来的に地力のあるエンジニアとしての基盤づくりができるでしょう。さらに認定資格の保有によって、未経験の領域への抜擢などキャリアアップのチャンスを増やせます。このようなエンジニア個人のメリットに加えて、会社全体のスキル向上にもつながるでしょう。

配属先が求めるスキルを組織目標にすり合わせ、充実した研修メニューを企画するには、エンジニアが技術知識を習得するプロセスを理解しておく必要があります。研修担当者が技術知識を習得するプロセスを理解するために、LPI-Japanが提供する各種コンテンツを活用するのも一案ではないでしょうか。

カリキュラム設計と研修資料作成のポイント

新人研修の効果を高めるためには、目的に沿ったカリキュラムとカリキュラムの内容をわかりやすく説明する研修資料が必要です。カリキュラム設計と研修資料を作成する際のポイントを解説します。

新人研修のカリキュラム設計

エンジニアの新人研修では技術知識の習得だけでなく、実務で直面する課題に対処できる能力を身につける必要があり、理論と実践をバランスよく組み合わせることが求められます。カリキュラム設計と準備は以下のような流れで行うとよいでしょう。

1. 研修の目的とニーズを把握する

何のために新人研修を行うかを定義し、どのようなスキルを習得させるかを決めます。

2. 新人の特性と知識レベルを把握する

一般的に技術知識のレベルには個人差があります。知識量の乏しい新人がついてこられる配慮と、知識量が豊富な人が退屈しない工夫が必要です。

3. 早期戦力化に必要な知識と技能の洗い出し

業務に必要なスキルを洗い出しますが、配属部署の要望すべてを盛り込むことは難しい場合が多いので、取捨選択が必要です。

4. 研修で教える範囲や内容を決める

基礎と業務に必要なスキルのバランスを考慮し、研修で教える範囲や内容を決めます。

5. 研修の目標を設定し、研修効果を評価する指標を定める

新人研修終了後に到達させたいレベルを要件化し、研修の目標とします。併せて研修効果を評価する指標を定めます。

6. 研修の手法を検討する

講義やeラーニングに加え、課題実習やプロジェクト形式の実習、先輩エンジニアによるコードレビュー、ペアプログラミングなどがよく用いられます。講義だけでは集中力が続かないので、課題や議論を取り入れて能動的に参加させる工夫も効果的でしょう。限られた時間内で新しいアイデアを形にする「ハッカソン」は、研修の目玉イベントとしても人気です。

7. 学習環境を整備する

研修用のパソコン、ネットワーク環境など、研修内容に応じた環境を整えます。

8. フォローアップ体制をつくる

講師、会社との橋渡しやメンタルをサポートするメンター、研修成果の評価者など、新人研修のフォローアップ体制をつくります。

9. 【研修開始後】進捗管理と研修内容の見直し

新人研修の進捗状況を管理し、必要に応じて研修内容の見直しを行います。

研修資料作成のポイント

研修資料は研修中に見るだけでなく、振り返って復習できる形で作成するのがおすすめです。知識量の個人差を考慮して予備知識がなくてもわかることを前提に作成し、情報を詰め込み過ぎないよう注意すると、誰もがわかりやすい資料になります。

また、内容を構造化して整理することで理解しやすくなります。読みやすくするためには、図やグラフを活用した視覚的な構成も効果的であり、自分で書き込めるスペースがあると使い勝手がよくなり、復習するときにも役に立つでしょう。

特に注意したい点は、最新の情報を反映させることです。IT分野では1年前の情報が陳腐化することも珍しくありません。できれば複数回のレビューを行いましょう。

エンジニアの新人研修資料を作成する手順

続いてエンジニアの新人研修を作成する手順を紹介します。カリキュラム設計と同様に大切なポイントは、「目的とゴールを明確にしておくこと」です。あれこれも盛り込んでしまうと、本当に理解してほしいことが伝わらない可能性があります。

1. 研修内容と目的を明確にする

新人研修で教えるべきこと、修了後にどうなってほしいかを明確にします。

2. 研修内容の流れを組み立てる

基礎から技術トピック、さらに実践的な知識といった形で、段階的に理解が進むよう研修内容の流れを組み立てます。

3. 研修対象の知識レベルと前後の研修内容を把握する

研修対象全員が理解できる資料を作成するため、知識量を把握します。知識量の個人差が大きいときは補習や応用編の資料を用意するのも効果的です。また、資料の整合性を保つために研修の全体像を把握しておきましょう。

4. スライドやテキストを作成する

上記を踏まえてスライドやテキストを作成します。重要なポイントは詳しく解説するか、何を参照すればよいかを明記しておことです。修了後に振り返りがしやすくなります。

5. 推敲とレビューを行う

作成した資料を推敲した後、レビューを行います。研修関係者に加えて、第三者視点を取り入れるために資料作成に関わっていない技術者や研修対象者と同等の知識を持っている人に見てもらいましょう。

他社事例:エンジニア向け研修資料

企業が公開しているエンジニア研修の資料を紹介します。カリキュラム設計や研修資料を作成する際の参考になります。これらの企業が研修資料を公開するのは、技術力向上の取り組みのアピールと同時に、エンジニア志望の学生や若手エンジニアの入社動機を形成する目的があると考えられます。

リクルートMember’sBlog「株式会社リクルート エンジニアコース新人研修の内容を公開します!」

サイバーエージェントDevelopersBlog「新卒エンジニア研修の講義資料を公開!技術力も圧倒的に成長するチーム開発研修とは」

サイボウズ エンジニアのブログ「2023年のエンジニア新人研修の講義資料を公開しました」

メルカリのエンジニア情報ポータルサイト「メルカリの新卒エンジニアはどう過ごす?2023年新卒研修の全貌を公開!」

新人研修でよくある失敗とその対策

新人研修でよくある失敗事例とその対策を紹介します。

失敗事例@:実務と乖離した研修内容になり、学んだことが現場で役に立たない。
【対策】配属先の意見を取り入れ、協力してカリキュラムを設計することで防止できます。

失敗事例A:受動的な学習スタイルで自立的に考える力が身につかなかった。
【対策】実践的な課題や実習を取り入れ、失敗や困難を克服する経験を積ませるのが効果的です。

失敗事例B:研修内容が盛りだくさんで消化しきれない。
【対策】研修中に振り返りとフィードバックを行い、習熟度を確認すると個々の進捗状況を把握できます。

失敗事例C:現場の業務についたら研修で教えられたことを忘れてしまう。
【対策】復習に使えるような資料づくりが効果的です。6カ月、1年などの節目に振り返り研修を行う企業もあります。

まとめ:新人研修のゴールは早期戦力化と長期的な成長の基盤づくり

新人研修は、新入社員をエンジニアとして自立させるスタートラインです。将来の成長を見据えた基礎教育と実務で役立つスキル習得のためには、明確な目標設定に基づくカリキュラム設計と、研修内容をわかりやすく表現した資料作成がポイントになります。

カリキュラムの設計は自社の技術者育成の目的ですが、最近の傾向として、特定のベンダーに依存した技術よりも、オープンソース/オープンテクノロジーを自社の技術者に習得させる企業が増えています。

オープンテクノロジーを効率よく習得するためには、学ぶ順序が重要です。長期的な視点で研修を考えるときには、学ぶ順序を紹介しているLPI-Japanのキャリアマップが参考になるのではないでしょうか。LPI-Japanのホームページでは、その他にも ITの仕組みについて興味を持ちながら学習できる「ITベーシック学習教材」などさまざまなコンテンツが用意されているので、時間に余裕のあるときに見るのもよいでしょう。エンジニア研修に関する幅広い情報をキャッチアップできます。

カリキュラム設計やキャリアパスの策定や見直しをするとき、LPI-Japanのキャリアマップなどのキャリアマップなどを参考に「自社が求めるエンジニアを育成するために必要なこと」から組み立てることで、充実した新人研修を効率よく実施できるのではないでしょうか。

Misa(ライターネーム)

ITベンチャーで経営企画、人材開発、広報などを経験後、独立。
現在は中小企業に向けた、新規事業構築、業務改善、組織活性化のコンサルティングとマネジメント支援を提供している。経営支援とライター業を両立し、多方面から企業の成長をサポートを行っている。

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