IT人材育成コラム

就職活動やキャリア形成にも影響するIT教育 学校教育への期待とは?

昨今、ビジネスにおいて不可欠な要素となっているITスキル。学校教育におけるIT教育が人材としての市場価値を高め、社会での活躍をサポートするでしょう。生徒に向き合い、育成する立場で、IT教育の概要やメリット、リスクなどを確認し、今後の取り組みを考えるヒントにつながるよう解説します。

日本のIT教育の取り組み、海外との比較から見える現状

日本におけるプログラミング教育は2020年に小学校、2021年に中学校、2022年に高校の順で必修化され、学校教育におけるIT教育の基盤が整いつつあります。しかし、海外諸国ではかなり早い時期からIT教育が組み込まれているのです。先進事例となる海外のIT教育事情をご紹介します。IT教育の取り組みを考える際のヒントになれば幸いです。

イギリス:
イギリスでは1990年代からIT教育を義務教育のカリキュラムに取り入れており、革新的なアプローチと教育カリキュラムの先進性が高く評価されています。2014年から初等教育の必修科目にプログラミングやデジタルリテラシーを教える「Computing」を導入し、アルゴリズムの理解やプログラミングスキルの習得に重点を置いています。国際的に見ても教育分野におけるICTの利用率は上位で、教室でのデジタル機器の使用時間が長い国のひとつと言われています。

アメリカ:
STEM(Science, Technology, Engineering, Mathematics)教育を重視し、プログラミングやコンピューターサイエンスがカリキュラムに組み込まれています。無料でプログラミングレッスンを受けられる「Code.org」などのプラットフォームを取り入れたプログラミング教育が普及しています。

イスラエル:
中等教育からITやサイバーセキュリティの授業が始まり、高校ではコンピュータサイエンスが必修科目となっています。大学の入試科目にもサイバーセキュリティが含まれています。高度なIT教育システムの確立によってIT先進国として知られています。自動運転技術やロボット、防犯カメラなどに搭載される自律型AI、画像解析技術を活用したウェアラブルAIデバイスなど、最先端技術が注目されています、

こうしたIT教育が、海外の技術革新や革新的なIT企業やベンチャーを輩出する土壌になっています。これまで日本のIT教育は「遅れをとっている」と言われてきましたが、これからのIT教育により社会全体の情報活用能力を向上し、国際競争力の強化を目指すこともできるでしょう。

ITとICTの違い、IT教育の重要性

ここではIT(情報技術)とICT(情報通信技術)の違いについて解説します。ITが技術そのものに焦点を当てるのに対し、ICTはその技術を通じて情報を伝達し、共有する行為に重点が置かれます。2000年代初頭ごろからITに代わってICTが使用されるようになりましたが、その背景には通信技術の発展による情報の伝達と共有、コミュニケーションの重要性が高まったことがあるでしょう。

ITはコンピューターやデータ通信などの技術を指し、ハードウェア、ソフトウェア、インフラなどを包括する広範な概念です。技術そのものとその応用によるビジネスプロセスの効率化、情報管理、データ処理なども含まれます。経済産業省がこの用語を使用しており、技術開発や産業政策などの文脈で使われることが一般的です。

情報の伝達や共有に重点を置くICTは、教育、医療、ビジネスコミュニケーションなどの場面で使用されます。情報通信産業を管轄する総務省が「ICT」を使用しているほか、国際的には「ICT」が広く普及しており、UNESCOやITUなどの国際機関でも採用されています。

学校教育における取り組みでは「IT教育」が定着していますが、IT教育はコンピューターやプログラミングの知識だけでなく、それらを問題解決に活用したり、新しいアイデアを生み出したりする能力を育成することが目的です。情報を批判的に分析し、創造的に利用する方法を学ぶことも重要な要素として定義されています。

適切なIT教育によって、デジタル化された社会の仕事や日常生活で求められる情報技術を活用するスキルと知識が身につけられるのです。また、学校におけるIT教育は、社会人として求められるスキルを身につけるための重要な手段になっています。

IT教育への期待と注意点

あらゆる業種でITエンジニアが必要とされており、多くの企業がIT人材の採用に苦戦しています。また、非エンジニア職でもITスキルと情報活用能力が求められるため、IT教育で身につけた知識とスキルは、就職市場において有利になり、将来のキャリア形成にもプラスの影響をもたすでしょう。

IT教育の現状と実践における要点

カリキュラムを考える際、できるだけ効率よく学べる内容にしたいと思われる方もいることでしょう。IT教育における課題とリスクを踏まえて、効率的なIT教育のポイントを解説します。

IT教育の課題

IT教育はまだ前例も少ないため、ノウハウが不足している学校も多く、IT教育の目的やゴールを明確に設定できないままIT教育に取り組んでいる学校もあるようです。さらに学校関係者全般にITに精通している教職員が多いとは言えない状態で、適切なカリキュラムづくりとカリキュラムに沿って指導できる先生が不足しています。

また、IT教育の実施には高速のネットワーク環境と一定水準のスペックの機器を確保することが不可欠です。GIGAスクール構想によって小中学校では1人1台の学習用端末の配備が完了し、高校でも2024年度内の完全導入に向けた整備が進められています。今後は、ネットワーク環境や機器を維持するためにかかる人手やコストが課題になるでしょう。こうした環境整備は学校として取り組むべき課題ではありますが、指導者の立場では環境に応じた指導を工夫する必要があります。

IT教育を実施する上で注意すべきこと

IT教育の展開カリキュラムのひとつとして、セキュリティリスクがあります。IT教育を通して、IT活用によって潜むさまざまな脅威を正しく伝えなければなりません。ここで伝えるリスクとして、外部からのサイバー攻撃に加えて、過失または故意による情報漏えい、プライバシー侵害や誹謗中傷などが含まれます。生徒・学生の一人ひとりがルールやモラルの重要性を理解し、守るよう指導を徹底することが重要です。

また、オンライン授業や自宅での課題などがある場合は、家庭ごとのネットワーク環境などの差異によってデジタルデバイド(情報格差)が発生し、教育機会の不均等につながる可能性もありますので、指導側も生徒への配慮を忘れずにIT教育を展開する必要があります。

効率的なIT教育のポイント

ITツールや技術は変遷が早いので、IT教育に最新の技術を取り入れようとしてもすぐに陳腐化してしまいます。このような背景からIT教育のカリキュラムを企画する立場の方は、「どの技術を学ばせるのが適切か」と考えられる方もいることでしょう。

トレンドの技術だけを取り上げるのではなく、IT教育を基礎から始め、新しい技術に対応できる基盤を築くことに重点を置くと、将来にわたって最新技術を吸収できる応用力を養えるのです。また、資格や認定をカリキュラムに取り入れ、明確なマイルストーンを決めていきましょう。

人材育成だけでリソース不足を解消できない場合は、講師派遣などの事業者や外部スタッフ活用を検討しましょう。なお、社員の人材育成に資格取得を活用する企業も多いため、生徒・学生が資格取得することで先々の就職活動やキャリア形成で有利な材料になることもあります。

まとめ・IT教育が人材としての社会的価値を高める

これまで、海外の先進諸国と比較した日本のIT教育の遅れと、それに伴う国際競争力低下への懸念がしばしば指摘されてきました。現在はそうした状況を打開すべく、教育現場では、教職員の皆様の真摯な努力によって試行錯誤しながらも、IT教育への取り組みが続けられています。

文科省の方針ではIT教育は単なる技術教育ではなく、情報活用能力を通して問題解決能力や創造性などを育てる取り組みであることから、適切なIT教育は社会に送り出した後の人材としての市場価値を上げることにつながるでしょう。
目先の技術教育で終わらせないためにも、IT教育のメリットとデメリットやリスクを正しく理解し、「どの技術をどうやって教えるか」という課題に向き合うことが求められるのではないでしょうか。

たとえば、社会人として求められる実践的なITスキルは、会社や事業内容によって技術要件が異なり、学校教育ですべての会社にマッチする知識を教えることは不可能です。そこで重要になるのがトレンドの技術に偏りすぎず、ITの基礎に重点を置いたIT教育です。

LPI-Japanは技術者認定機関としてさまざまな認定試験を提供し、あらゆる分野で共通するオープンテクノロジーの技術者育成を支援しています。学校のIT教育においても、認定資格を習熟度の指標としてご活用いただけます。資格取得という明確な目標を持つことは、学習のモチベーション形成にも効果があるでしょう。また、就職活動においては取得した資格に加え、認定試験のために努力した経験もアピール材料にできます。

IT教育の取り組みを検討される際、汎用性の高いITの基礎教育と効果的な学習方法として、LPI-Japanのサービスをおすすめします。

Misa(ライターネーム)

ITベンチャーで経営企画、人材開発、広報などを経験後、独立。
現在は中小企業に向けた、新規事業構築、業務改善、組織活性化のコンサルティングとマネジメント支援を提供している。経営支援とライター業を両立し、多方面から企業の成長をサポートを行っている。

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