IT人材育成コラム

企業の成長力を支えるエンジニア育成戦略と基礎教育の重要性

企業におけるエンジニア育成は経営基盤を強化し、持続可能な成長のための重要なファクターです。自社でエンジニアを育成する際の課題とその解決策、効果的な育成計画の立て方、エンジニア育成の根幹となる基礎教育の重要性、資格の活用などを解説します。

エンジニア育成の必要性とその影響力

ITエンジニアは、ITによって経営課題の解決や実現に貢献する役割を担う戦略的価値の高い人材であり、あらゆる業種が優秀なエンジニアを必要としています。ここでは、企業におけるエンジニアの役割や影響力を解説します。

自社人材の育成が経営基盤の安定と成長に不可欠である理由

自社で育成することで、ビジョンや経営方針を的確に把握し、自律的に課題解決に取り組めるエンジニアを育てられます。育成を通して継承される技術力で、事業に貢献するマインドがサービス品質や顧客満足度の向上、すなわち市場競争力を支える力になるのです。外部の人材には開示できない技術や機密情報を習得できる点も、自社で育成するエンジニアの強みもあります。

そして、デジタル化の広がりにより経験豊富なエンジニアの採用は難しくなっています。そのため、自社でエンジニアを育成することが優秀な人材を効率的よく確保する方法といえるでしょう。

企業成長の原動力となるエンジニアの役割

エンジニアは事業と経営を支えるシステムの企画から構築、運用を担います。特にITサービスを提供する会社では、ITなしでは事業が成立しません。

エンジニアの役割は、経営や現場のニーズを反映したシステムやインフラを構築・運用することです。しかし、外部のエンジニアには社内体制の理解や機密情報へのアクセスの難しさ、といったハードルがあります。それに対して社内エンジニアはニーズをくみ取りやすく、きめの細かいスピーディーな対応が期待できます。また、企業の競争力を高める鍵となるDX推進のキーパーソンや新商材開発など、さまざまな場面でエンジニアが成長の原動力となるのです。

エンジニア育成と人材定着化の課題

新入社員研修後は現場に配属され、OJTに移行するのが一般ですが、配属後は業務優先となる傾向が強く、エンジニアのOff-JTは難しいという声も挙がっています。他方では新卒社員の早期離職が常態化しつつあり、採用や育成コストの負担が問題になっています。ここでは、エンジニア育成と人材定着化の課題について整理します。

エンジニア育成で直面する課題

新しい技術への対応が求められるエンジニアは業務の傍ら、勉強を続けています。しかし、現場で活躍するエンジニアが研修を受ける機会は意外に少ないようです。

これには、現場での育成を任された担当者の「業務に追われて時間を確保できない」「研修企画に手が回らない」「研修の効果を検証できない」といった理由が考えられますが、その背景には「技術の変遷が早すぎて準備する間に内容が陳腐化してしまう」「部門ごとのニーズが異なり全体に適した研修が難しい」といった、会社全体の育成方針にまつわる課題も存在します。

部門主導で育成を進めた場合、業務に必要なスキルは身につきますが、エンジニア全体のスキルを底上げする教育からは離れてしまう可能性があるでしょう。

育成した人材の早期離職にどう対処するか

指導した新入社員の早期離職を経験された方も多いでしょう。離職による人員不足に加えて、育成に費やした労力やコストの負担も問題になっています。

厚生労働省の統計では、新規学卒者の3割以上が3年以内に離職したという結果が出ています。「キャリアパスが見えない」「ロールモデルがいない」など、将来の不安を理由に離職する若手社員が多いようです。

技術の進化とともにエンジニアの専門領域や役割が細分化し、職種や役割に応じて必要とされる専門性が高まっています。会社が提供する教育に加えて、エンジニア自身で専門分野やキャリアパスを選択し、スキルアップを続けなければなりません。

身近に目標となる上司や先輩エンジニアがいれば、目的意識を持って自己啓発に取り組めます。しかし、会社が進もうとする方向性がわからず、また目標となる人もいない環境では、若手社員は何を目標とすればよいかわからず、将来への不安を感じるようになるようです。

こうした不安を解消するには、早い時期からキャリアの目標を持てるよう促し、育成プログラムを提供することが効果的でしょう。具体的な施策について解説していきます。

エンジニア育成のための戦略と実践的解決策

転職のハードルが下がり、人材育成と並行して定着化の施策を行わなければ、育成した人材の流出は防ぐのが難しいでしょう。ここではキャリア形成の視点から、人材の育成と定着化の戦略と具体的な施策を解説します。

人材育成のための戦略 ゴールとキャリアパス

ITエンジニアの多くは「今のスキルがいつまで通用するか」という不安を抱えています。だからこそ「次に来る技術」を学び、「市場価値が高いスキル」を身につけようと努力するのです。エンジニアが安心して働けるのは、自分が目指すキャリアパスと会社の方向性が一致し、市場価値が高い、もしくは普遍的なスキルを習得できる会社だと考えられます。

この視点を人材育成に取り入れると定着化につながります。まず、会社が進む方向性とそこで求められるエンジニア像を明確にしましょう。求められるエンジニア像が育成のゴールであり、キャリアパスはマイルストーンにあたります。キャリアパスによって育成計画が立てやすくなり、本人のモチベーションも高まるでしょう。人材育成に積極的な会社は、エンジニアにとっては魅力的な環境です。

これらを踏まえた育成計画を立てる流れを解説します。

@育成目的、ゴールを設定する

はじめに「求められるエンジニア像とその役割」を言語化しましょう。エンジニアの階層や職種を可視化する自社のキャリアマップがあるとよいですが、資格を取り入れる方法もあります。自社独自のキャリアマップは事業との適合性は高くなりますが、作成の時間や手間がかかるうえ、スキルがガラパゴス化するといったリスクもあるようです。

A目的を満たす人材要件を設計する

求める役割に必要なスキル、能力、資質などの要件を洗い出し、優先順位をつけます。その要件を満たす出題範囲を設定している資格の取得を人材要件とすると基準が明確になり、ゴールとしての資格に合格がより明確になるでしょう。

B育成のマイルストーンを設定する

人材要件で設定したスキル、能力習得のマイルストーンを設定します。キャリアマップからキャリアパスを設定するとわかりやすく、教育計画が立てやすくなるでしょう。

育成計画の立て方と進め方

育成と成長には個人差があります。そのため、効率よく育成するには、個人のスキルや経歴に応じた育成計画を立てるのがおすすめです。

@育成対象者の状況を調査する

育成対象者の経歴や経験を把握しましょう。例えば、同じプログラミング経験者でも、情報工学系出身者と独学で学んだ人では知識の範囲が異なります。

Aキャリアパスと育成計画を策定する

短期・中期・長期の目標を具体的に設定し、育成計画を立てましょう。キャリアパスから落としこんでマイルストーンを設定することで、計画に具体性を持たせることができます。

B必要なスキルと教育方法を策定する

各マイルストーンで必要なスキルを洗い出しましょう。基礎知識、段階的に学ぶべき知識、階層や役割に応じた知識など、どのタイミングで教育するかを計画します。

C教育手法を選定し、実施する

スキルごとの教育手法を検討しましょう。集合研修、個別学習、OJTなど、スキルの特性や個人の状況に応じて選択します。

D教育の成果を振り返る

定期的な振り返りで教育の成果を検証します。人事考課との連動が一般的ですが、プロジェクトの節目や役割が変わるときも振り返りとしてよい機会といえるでしょう。

エンジニアの育成で重視すべきポイント

エンジニア育成でよくある課題は、研修で教えられる範囲と現場が求める技術要件のギャップです。ここでは、限られた期間で技術要件のニーズを網羅することが難しい場合にどうすべきかを考えましょう。なお、この課題への最適解のひとつとして、ITの基礎教育に重点を置く方法があります。
ここでは基礎教育の重要性と、効率のよい研修のための目標設定や習熟度の確認に役立つ資格について解説します。

基礎教育がエンジニアの総合力向上に与える影響

エンジニア育成においては、現場が求める技術要件ニーズを研修で網羅することが難しい場合が一般的です。特にエンジニアとしてのスタートラインである新人研修では、特定の技術要件に重点を置くのではなく、配属先でスキルを上積みできるようITの構造や特性から理解させる基礎教育に力を入れることが効果的と考えられます。

技術構造から理解していない表層的な知識だけでは、課題解決力が身につきにくく、指示されたことしかできない状態になってしまいがちです。いずれは上流のシステム企画やトラブルシューティングに携わることを期待する人材には、課題解決力の基礎となるIT基礎教育が必須といってよいでしょう。

例えば、AIに複雑な処理を実行させる際には、指示内容を構造化したコマンドプロンプトが必要ですが、プログラミングの考え方を理解していれば、難易度の高いコマンドプロンプトを作成できます。開発言語の学習でも基礎知識があれば、すでに習得した言語の知識を応用しながら、新しい言語を習得することも可能です。

基礎教育で身につけた応用力は日々の業務で発揮されるだけでなく、新しい知識を習得する場面でも発揮されるでしょう。

資格取得を通じたスキル底上げと人材育成の未来

「資格の勉強は業務で役立たない」と考える人もいるようです。確かに目の前の仕事のための勉強ではないので、学習範囲には実務に直結しない内容も含まれます。

逆に、業務で得られる知識は業務に役立つ範囲に限られます。資格取得の学習範囲は業務に関する内容に限らず網羅的に学ぶため、その分野の基礎知識や構造的な理解が身につくのです。結果として、より高度な知識を学ぶときの学習速度アップや応用力向上を期待できます。

資格取得の奨励が会社全体のスキルの底上げにつながります。成長意欲が高い人材ほど、会社が人材育成に積極的であることをメリットと感じるため、優秀な人材を惹きつける魅力づくりにもなります。

まとめ:基礎教育の強化が人材育成を加速する

エンジニアの新規採用で苦戦していませんか?
新規採用が難しいのであれば、社内の人材を育成する選択肢もあります。すでに自社の事業や文化を理解しているため、効率のよい人材育成につながるでしょう。

早期戦力化を優先した育成では、少し先に伸び悩むリスクがあります。しっかりした育成計画を立て、ITの基礎から教育することで長期的な成長速度が高まるでしょう。初期にしっかり基礎教育を行い、キャリアパスの転換期に振り返りで基礎教育をやり直すのも効果的です。長期的な視点で考えると、採用強化に偏り過ぎず、エンジニア育成を強化するのが望ましいでしょう。

エンジニア育成にあたっては、キャリアパスや育成カリキュラムなどを整備する必要が生じます。エンジニア育成の実績が少ない会社では、どこから手をつけるべきか悩まれることもあるでしょう。

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Misa(ライターネーム)

ITベンチャーで経営企画、人材開発、広報などを経験後、独立。
現在は中小企業に向けた、新規事業構築、業務改善、組織活性化のコンサルティングとマネジメント支援を提供している。経営支援とライター業を両立し、多方面から企業の成長をサポートを行っている。

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